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福岡地方裁判所 昭和52年(ワ)1102号 判決

原告

山崎昭典

被告

東部自動車販売株式会社

ほか二名

主文

被告らは原告に対し、各自金一四一五万五五五七円及びこれに対する昭和五二年三月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金三九一〇万一七六七円及びこれに対する昭和五二年三月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五二年三月二日午後一時四五分頃

(二) 場所 福岡県山門郡瀬高町九州縦貫自動車道上り一二四、四K地点

(三) 事故車 普通乗用自動車(登録番号福岡五〇に三〇四、以下「本件車」という)

(四) 右運転車 被告森山辰則(以下「被告辰則」という)

(五) 被害者 原告(右事故車に同乗中)

(六) 態様 被告辰則が先行車両を追越そうとした際、スリツプして道路側端のガードレールに激突

(七) 受傷の部位程度

原告は、本件事故により、頭部外傷、頭蓋骨々折、右前腕骨折、左第三ないし第六肋骨々折、左肩胛骨々折、第二腰椎左横突起骨折、顔面挫創、全身挫傷後の機能障害等の傷害を負つた。

2  責任原因

(一) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告東部自動車販売株式会社(以下被告会社という)は、本件車を所有して自己のため運行の用に供し、本件事故当時は、被告辰則に修理中の車両の代車として貸与していた。

(二) 一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告辰則は、タイヤの摩耗した本件車で高速自動車道を走行中、降雨中にも拘らず、先行車両を追越さんと制限速度毎時八〇キロメートルをはるかに超える毎時約一六〇キロメートルの速度で運転走行した過失により、本件事故を発生させた。

(三) 連帯保証責任

被告森山政雄(以下「被告政雄」という)は、昭和五二年六月五日、原告に対し、本件事故によつて生じた被告辰則の損害賠償債務につきこれを保証し、被告辰則と連帯してその支払の責に任ずる旨約した。

(四) 不法行為責任(民法七〇九条)―被告政雄の予備的責任原因

被告政雄は、本件事故当時、未成年である実子被告辰則が運転する本件車の助手席に同乗していたのであるから、その親権者として被告辰則が無謀な運転を行なわないように監督する注意義務があるのに、これを怠つた過失により本件事故を発生させた。

3  損害

(一) 治療経過及び後遺症

(1) 原告は、前記1の(七)に記載の傷害のため、昭和五二年三月二日から同年五月三一日までの九一日間八女公立病院に、同年六月九日から同月一三日までの五日間千鳥橋病院に、同月一八日から同五三年一月一〇日までの二〇七日間古川外科病院に、同年九月五日から同五四年四月二四日までの二三二日間及川外科病院に、合計五三五日入院した。

(2) 後遺症

現在原告は本件事故によつて視力両眼〇・〇六以下となり、かつ頭部、頸部、腰部及び右手関節に各後遺症があり、右を併せると、原告の後遺障害は後遺障害別等級表三級に相当する。

(二) 休業損害 金五二二万六六六六円

事故時の収入 石炭小売販売業で月収平均二〇万円

休業期間 昭和五二年三月二日から同五四年四月二四日までの七八四日間

計算式 二〇万円÷三〇日×七八四日

(三) 将来の逸失利益 金二八九八万四五六〇円

稼動可能年数 昭和三年一〇月三〇日生、昭和五四年四月二四日(退院時であり後遺症固定時)当時五〇歳の成人男子であるから六七歳までの一七年間

中間利息の控除 新ホフマン方式による。係数一二・〇七六九

労働能力喪失率 一〇〇パーセント

計算式 二〇万円×一二ケ月×一二・〇七六九

(四) 入院雑費 金二六万七五〇〇円

入院期間五三五日間、日額五〇〇円

(五) 慰藉料 金一〇三〇万円

内訳 入院(重傷)分 金二三〇万円、後遺症分 金八〇〇万円

(六) 弁護士費用 金四〇〇万円

(七) 填補分 金九六七万六九五九円

内訳 被告辰則からの弁償金三五万六〇〇〇円、自賠責保険から金九三二万〇九五九円

4  よつて、原告は被告らに対し、右損害額から填補分を控除した損害額残金三九一〇万一七六七円及びこれに対する事故発生の翌日である昭和五二年三月三日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  被告会社の答弁

請求原因1及び3の事実は知らない。同2の事実は認めるが、自賠法三条による責任は争う。

2  被告辰則の答弁

(一) 請求原因1のうち(一)ないし(六)の事実は認めるが、同(七)の事実は知らない。同2の(二)の事実のうち、制限速度及び走行速度は否認する。前者は毎時一〇〇キロメートル、後者は同一二〇キロメートルであつたし、過失は争う、その余は認める。

(二) 同3の事実は否認する。即ち

(1) 休業損害については、休業の事実は認めるが、原告は就労意欲に乏しく、右休業期間中真面目に治療に専念していないので、右休業と本件事故との相当因果関係はない。

(2) また収入についても、原告は農家等を相手に、冬季の燃料として使用する石炭の販売を行つていたもので、その性質上夏季には需要はなく、収入も考えられず、年間平均の収入が月額二〇万円もあつたとは考えられない。

3  被告政雄の答弁

被告辰則の答弁のとおりであるほか、請求原因2の(三)及び(四)の事実は否認する。被告政雄は本件当時後部座席に乗車し、原告が助手席に同乗していた。

三  被告らの主張

1  原告は、本件当時、被告辰則の好意により本件車に同乗し、被告政雄を含めて三名でドライブ中であつたもので、いわゆる好意同乗者であるから、その損害額については相当の減額がなされるべきである。

2  被告辰則は、本件損害賠償の内払金の趣旨で、被告に対し、次のとおり、合計金二〇五万〇三〇〇円を支払つて弁済した。

(一)昭和五二年三月八日金一八万円、(二)同年七月四日金二万円、(三)同月末まで金二八万八五〇〇円、(四)同年八月三日金二〇万円、(五)同年九月二日金二万円、(六)同年一〇月五日金一三万六〇〇〇円、(七)同年一一月から同五六年九月一日まで合計金一二〇万五八〇〇円

四  被告らの主張に対する答弁

1  主張1につき、主張のとおりドライブ中であつたことは認めるが、右被告ら両名に熊本、阿蘇方面への道案内を無理に頼まれ、やむなく本件車に同乗したに過ぎず、好意同乗ではない。

2  主張2につき、同(三)ないし(七)の弁済(総額一八五万〇三〇〇円)は認めるが、その余は否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生について

請求原因1の(一)ないし(六)の事実は、被告辰則、同政雄との間では当事者間に争いがなく、右被告らとの関係において同(七)の事実、並びに被告会社との関係において同1の全事実については、成立に争いのない甲第二、第九、第一一、第二一ないし第二九号証により、すべて認めることができる。

二  被告らの責任原因について

1  被告会社については、同社は、本件車を所有し、被告辰則の修理依頼中の車の代車として同被告に貸与したことにつき、当事者間に争いはなく、他に被告会社が所有者として負担すべき運行供用者としての責任を免除されるべき特段の事情の主張も立証も存しないから、被告会社は本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

2  被告辰則の不法行為についてみるに、同被告が、タイヤの摩耗した本件車を運転し、最高速度毎時一〇〇キロメートルとされた高速自動車道を運転走行し、しかも降雨時なのに、先行車を追越すために毎時一〇〇キロメートルを下らない速度で運転走行したため、右車をスリツプさせて本件を惹起したことは当事者間に争いがないから、本件事故は、同被告がかかる整備不良車をしかも降雨時に右のような高速で運転した過失により発生したことは明らかである。従つて、同被告には民法七〇九条による賠償責任がある。

3  被告政雄の責任についてみるに、被告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第六号証(官署作成部分の成立については争いがない)によれば、同被告は原告に対し、昭和五二年六月五日、本件事故により生じた被告辰則の原告に負担する損害賠償債務につき、被告辰則と重量的に債務を引受ける旨の約束をしていることが認められ、これを覆すに足りる証拠はなく、右事実によれば、被告政雄は被告辰則が原告に対し負担すべき本件不法行為による損害賠償債務を支払う責任がある。

三  損害について

1  治療経過及び後遺症について

前記認定の原告の受傷に伴う治療経過についてみるに、成立に争いのない甲第二、第九、第一二、第一三、第三〇、第三一号証、第三二号証の二、乙第一ないし第四号証、証人澤田浩次、同杉田隆、同古川隆一郎及び同山崎ヨシカ(第一、第二回)並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当日から昭和五四年四月二四日及川外科病院を退院するまでの間、前記第一項で認定の請求原因1の(七)記載の傷害により、同3(一)、(1)に主張のとおり各病院で入院治療を受けたこと、各個所の骨折等については当初入院した八女公立病院で治療を終えており、受傷三ケ月後から半年余り入院治療を受けた古川外科病院においては、右骨折等の症状は固定していて、右手指や右手関節等に骨折に伴う後遺障害があつたり、起坐歩行困難、握力の低下、顔面挫創や全身挫傷後の機能障害が残つてはいたものの、これらの障害も右病院に入院中にほぼ症状の固定をみたこと、その固定症状は、頭部外傷、後遺症及び外傷性頸部症候群による不定愁訴として生ずる不眠、頭重感、頭痛及び頸部運動制限等、腰部(疼痛を伴う)、右手関節及び第三ないし第五指の各可動域制限等であり、右の各障害につき鑑定人澤田浩次は、綜合して後遺障害等級表の第一一級に該当すると鑑定していること、しかし、更に翌年の昭和五三年六、七月ごろから、急に眼に障害が生じ始め、昭和五五年一二月二六日までの間に行つた六回の視力検査等によれば、左右裸眼それぞれの視力は〇・〇二ないし〇・〇八の間を変動し、最後の昭和五五年一二月二六日の検査では左右それぞれ〇・六の視力検査結果が出ており、またいずれにおいても視野狭窄があると診断されていること、これらの各障害はいずれも本件事故と因果関係があるものであること、眼の治療は、昭和五三年七月初ころから八月三一日までの約二ケ月間、自宅近くの田原眼科にて通院加療したのみに止まり、かつその治療効果は殆どなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、右事実によれば、右身体的障害は、原告が古川病院を退院した昭和五三年一月一〇日まで、即ち事故の約一〇ケ月後には、後遺障害としてほゞ固定したもので、かつそれは後遺障害別等級表の第一一級に該当するものと認められ、他方視力障害は、原告が田原眼科での治療を打切つた同年八月三一日には、その症状の固定があつたもので、かつ、それは同等級表の第六級に相当すると認められる。右を綜合するとき、原告の後遺障害は遅くとも昭和五三年八月三一日には症状の固定をみ、かつ後遺障害等級表の第五級に相当すると考える。

2  休業損害 金二七〇万二四六五円

証人山崎ヨシカ(第一、第二回)、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は事故の五ケ月前の昭和五一年一〇月頃から、石炭販売業を、自ら初めて独立して、営業していたこと、それから本件事故までの間、月平均二〇万円の純益を上げていたこと、しかし、右石炭販売先は一般家庭の燃料用石炭であつて、概ね九月から三月にかけてが需要期であり、原告が営業した期間はほゞその需要期に包含されていることが認められ、右事実によれば、原告の年間を通じての平均月収は一五万円を超えることはないものと認める。そうして前項までに認定の事実によれば、原告は事故により、その受傷後及川病院退院時までの七八四日間、右石炭販売業を休業したことが明らかであるが、前記1に認定の事実を併せ考えるとき、原告の休業期間のうち、事故当日から眼の治療の終了した昭和五三年八月三一日までの間の五四八日間の休業が、本件事故と相当な困果関係があるものと考える。右各事実により原告の休業による損害を算出すると、金二七〇万二四六五円となる。

(計算式)

一五万円×一二ケ月×五四八日÷三六五日=二七〇万二四六五円

3  将来の逸失利益 金一七一七万三三五一円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、症状固定時の昭和五三年八月三一日当時四九歳一〇ケ月の男子であつたことが認められるから、その稼働可能年数は一七年をもつて相当とし、前記後遺障害(第五級)に照らせば、その労働能力喪失率は七九パーセントをもつて相当とするので、その将来の逸失利益を年別の新ホフマン方式により中間利息を控除して算出すると、金一七一七万三三五一円となる。

(計算式)

一五万円×一二ケ月×〇・七九×一二・〇七六九=一七一七万三三五一円

4  入院雑費 金一五万一〇〇〇円

前記1の認定によれば、原告が五三五日間入院したこと、本件事故と相当因果関係がある入院は古川外科の入院時までの三〇二日間とみられ、また弁論の全趣旨及び経験則によれば、原告は右入院期間中一日五〇〇円の割合による入院雑費を必要としたと認められるから、その総額は金一五万一〇〇〇円となる。

5  慰藉料 金四〇〇万円

慰藉料につき判断するに先立ち、好意同乗に関する被告らの主張につき検討するに、原告、被告辰則及び同政雄の各本人尋問の結果によれば、本件事故当日は朝から雨が降つており、大工職であつた被告辰則は仕事がなく、同日午前八時過ごろ父親の被告政雄を本件車に同乗させて近くの病院に連れて行く途中原告方に立寄つたこと、そこで原告らと話しをするうち、被告辰則が同政雄をドライブに誘つたところ、これを聞いた原告も熊本方面に集金があるので自分も行こうといい出したので、三人で阿蘇、熊本方面にドライブに出かけたこと、しかし阿蘇は霧がかかり、また途中道を間違うなどして時間を喰つたため、阿蘇行きも集金も中止して熊本から引返すうち、本件事故を惹起したこと、原告及び同被告方は隣近所であり古くからの交際があつたし、ことに原告と被告政雄は本件まで極めて親しい間柄であつたことが認められ、これに反し原告は本人尋問で、被告らに熊本、阿蘇方面の道案内を頼まれてやむなく同乗した趣旨の供述をするが、前掲各証拠によれば原告は往復両路とも道案内にそぐわない後部座席に同乗していたことが認められることや、被告森山両名の本人尋問の結果に対比するとき、道案内のみで原告が同乗したものとは認められず、右被告らとドライブを楽しむ意図があつたことまで否定することはできない。他に右認定に反する証拠はない。そうすると被告辰則はドライブするために、原告を本件車の後部座席に無償かつ好意で同乗させて進行中、本件事故を惹起したことも否定できないから、これを慰藉料額の算定に際し原告に不利な事情として考慮すべきものと考える。これに本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過及び後遺症の内容、程度等諸般の事情を考慮するとき、原告の慰藉料は金四〇〇万円とするのが相当である。

6  以上の損害額の合計は金二四〇二万六八一六円となる。

四  損害の填補 金一一一七万一二五九円

1  原告が、自賠責保険から金九三二万〇九五九円の支払を受けていることは、原告の自認するところである。

2  被告辰則の内入弁済(被告らの主張2)についてみるに、右弁済主張のうち(三)ないし(七)の合計一八五万〇三〇〇円については当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一八ないし第二〇号証、第三二号証の一、二、乙第五号証によれば同弁済(一)、(二)の計二〇万円については、昭和五二年七月末日までに合計二八万八五〇〇円支払つたとする同(三)の弁済に含まれていること、被告辰則は、右支払額につき、被保険者として強制保険の保険会社から返済を受けているが、その内二〇万円は同(四)のとおり原告に支払つているなど、以後の弁済に充当されていることが認められ、右事実によれば、右主張の(一)、(二)の返済は(三)の一部と重複するものであり、返済額から控除されるべきものである。そうすると被告辰則の原告に対する本件損害額の内入弁済の主張は金一八五万〇三〇〇円の限度において理由がある。

以上によれば、原告はその損害額のうちすでに合計一一一七万一二五九円の支払を受けていて、同額の損害が填補されていることになる。

五  弁護士費用 金一三〇万円

本件事案の内容、審理経過、請求額及び認容額に照らすと、原告が本件事故により被告らに賠償を求めうる弁護士費用の額は、金一四〇万円と認めるのが相当である。

六  結論

以上によれば、被告らは原告に対し、前記三及び五の損害の総額二五三二万六八一六円から填補ずみの金一一一七万一二五九円を控除した残金一四一五万五五五七円及びこれに対する本件不法行為の日の翌日である昭和五二年三月三日から支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による損害金を支払う義務がある。

よつて、本訴請求のうち、右の限度で理由があるから認容し、その余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川本隆)

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